都会の稲穂


住宅街に、ぽっかりと浮かび上がったような空間に、稲穂が植わっている。青々とした稲たちが、秋風の先触れに揺れる姿が美しい。ざわざわと、風の抜けていく様子に、僕の心も少し浮き立つ。コンクリートに囲まれた環境のなかで、その体内に命を実らせる稲穂は、どこか毅然として見えた。9月は、秋を感じることができるだろうか。ここ数年、僕は冬と夏ばかりに囲まれてきたような気がする。極端な気温しか心に届かないほど、余裕をなくしていたのかもしれない。秋と春の心地よさが、頑なな心のどこかを、溶かしてくれるのだと信じたい。それは、僕自身が、秋や春のような人間でありたいと願っている証拠でもあるような気がするのだ。