2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

90年代の清算(その2)

高校時代に、話を戻そう。 僕が通っていた高校は水戸一高といって、旧水戸城の本丸跡にある。一応、進学校なのだけれど、基本的には放任主義の学校だった。当時の男女比は2:1。先輩は「黄金比率」と呼んでいたが、あまり輝かしい雰囲気ではなかった。むしろ…

90年代の清算(その1)

僕にとっての90年代は、『羊たちの沈黙』によって幕を開けた。フロイトとユングの難解さに打ちのめされた高校時代は、文芸系クラブの“開放的牢獄”ともいえる部室に入り浸った。トランプと、野球ゲームと、雑記張と呼ばれる交流ノートが救いだった。調子にの…

『コックサッカーブルース』/村上龍

村上龍、1991年の長編小説。「ドラゴン・ツリー・フェスティバル」という謎のSMパーティをめぐり、出版社のオーナー・堀坂進太郎が陰謀めいた世界に足を踏み入れるさまを描く。SMに関しては大沢在昌『心では重すぎる』や、石田衣良の池袋ウエストゲートパー…

『脳と仮想』/茂木健一郎

いや、これはすごいな。ここ半年ほど、考えてきたことの回答がここにはある。それはリアルとは何か、であり、その対極をなす仮想とは何か、ということでもある。「人間にとって切実なものは、実はほとんど仮想の世界に属している」。後頭部をガツンとやられ…

『キッズ・リターン』/北野武監督

カンヌで好評を博した北野武監督第6作。1996年。 事故ったタケシのリハビリ映画といわれれば、なるほどとも思う。 当時、新人だった安藤政信を起用していることからも、「過去を清算して再出発しよう」とする作り手の意志が見える。主人公の二人の存在感は薄…

ばんごはん

ボロニア風ミートソースのパスタ(ペンネ)と、サラダ、ローストビーフ。 映画を観ながら、2時間かけてゆっくり味わう。 ワインはフランスのドメーヌ・リショー(スペシャル・キュベ)だったけど、 ちょっと甘みが強すぎるなぁ。 食前(調理中)に飲んだイタ…

『ブラック・ダリア』/ブライアン・デ・パルマ監督

思ったよりは、悪くないよ。うん。 原作は『ビッグ・ノーウェア』『LAコンフィデンシャル』『ホワイトジャズ』へと続く、ジェイムズ・エルロイのLA四部作。そもそも『ブラック・ダリア』は原作のプロットも込み入っているので、脚本もがんばっていると思う。…

『モダン・タイムス』/チャールズ・チャップリン監督

監督・脚本・主演、チャールズ・チャップリン。1938年の作品。 ベルト・コンベアで単調なボルト締め作業をしているうち、狂気に駆られて病院行きになるシーンはあまりに有名。ただこの映画の見所は、現代を風刺する視線そのものよりも、ポーレット・ゴダード…

反作用

コミュニケーションとは、とても物理学に近いのではないか、と思うことが最近多い。つまるところ、作用・反作用の積み重ねであるわけだし、強い力も、方向を間違えれば効果は薄い。 問題は、この物理法則を理解できるかどうか、だ。残念ながら、僕はその点で…

『刺青白書』/樋口有介

柚木草平シリーズの番外編ともいえる長編小説。 今回の主人公は女子大生の三浦鈴女(すずめ)で、彼女の中学時代の同級生が連続して殺害されたことから物語ははじまる。この鈴女という女の子は、とにかく世間とズレていて、小学校時代は「いじめられているこ…

『奪取』/真保裕一

日本推理作家協会賞、山本周五郎賞をダブル受賞した長編サスペンス。「小役人シリーズ」や『ホワイトアウト』は読んでいたが、こちらはずっと未読だった。 ヤクザの街金から1260万円の借金をした友人・雅人を救うため、パソコンを使った偽札づくりを実行した…

『ミリオンダラー・ベイビー』/クリント・イーストウッド監督

2005年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞(ヒラリー・スワンク)、助演男優賞(モーガン・フリーマン)と4部門を受賞。賛否両論あった話題の作品。 傑作西部劇『許されざる者』と対をなす映画、とでもいおうか。この作品においても、イーストウ…

『企画書は1行』/野地秩嘉

企画書の書き方、というよりは、優れた企画を生み出してきた人物をとりあげたドキュメンタリー。登場するのは放送作家の小山薫堂、トヨタ自動車の張富士夫、JFAの川渕三郎、元警察庁長官の國松孝次、タグボートの岡康道など。企画には明確な意志、わかりやす…

『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』/ゴア・ヴァービンスキー監督

これは、ちょっと、しんどいなあ。前作はまだ物語がまとまっていて、集中して観られたのだが、本作はなかば惰性で観終えた感じ。ジョニー・デップも、オスカー候補になるほどかなあ。『エド・ウッド』の神々しさはどこへやら。でも、キーラ・ナイトレイはな…

『インソムニア』/クリストファー・ノーラン監督

『メメント』のクリストファー・ノーラン監督。主演はアル・パチーノ、ロビン・ウィリアムス、ヒラリー・スワンク。1997年のエーリク・ショルビャルグ監督作(ノルウェー)のリメイクだが、原版は未見。 白夜のアラスカで、ティーンエイジャーの少女が撲殺さ…

『探偵は今夜も憂鬱』/樋口有介

柚木草平シリーズ第3作となる短編集。エステ・クラブの女社長から義妹の調査を依頼される「雨の憂鬱」、女優の失踪事件を扱う「風の憂鬱」、登山中死んだはずの夫からの手紙をめぐる「光の憂鬱」を収録する。 個人的には前2作の長編よりも、こちらの短編集の…

『初恋よ、さよならのキスをしよう』/樋口有介

柚木草平シリーズ第2作。 娘の加奈子とスキー旅行に出かけた草平は、そこで高校時代の初恋の相手、卯月実可子と20年ぶりに再会する。しかし1ヶ月後、彼女は自身が経営する雑貨店で、何者かに撲殺されてしまった。実可子の姪の依頼で、事件の調査をはじめる草…

『訴訟』/マイケル・アプテッド監督

これは意外な掘り出し物だなぁ。 主演はジーン・ハックマン、メアリー・エリザベス・マストラントニオ。 正義感あふれる庶民派弁護士のジェドと、大手弁護士事務所に勤める娘のマギー。この二人が自動車爆発事故の企業訴訟をめぐり、原告側と被告側にわかれ…

『氷と炎の歌3 剣嵐の大地(2)』/ジョージ・R・R・マーティン

1巻目に引き続き、陰謀劇が進行中。政略結婚によるジョフリーの統治体制を固めつつ、さらなる策謀をめぐらせるタイウィン・ラニスターの目的が、終盤近くで明らかになる。父親に比べれば、小鬼ティリオンもかたなしですね。サーセイもおとなしくなって、出番…

『彼女はたぶん魔法を使う』/樋口有介

いつか読もう、読もうと思って放置してきた樋口有介の人気シリーズ第1作。 元刑事のフリーライター、柚木草平が女子大生のひき逃げ事件の真相を追う。 物語の筋書きは正統派のハードボイルドなのだけれど、主人公の軽口がうまく効いていて、沈んだ感じはしな…

『チャイナタウン』/ロマン・ポランスキー監督

ジャック・ニコルソン、フェイ・ダナウェイ主演のハードボイルド映画。1937年のロサンゼルスを舞台に、ダム建設をめぐる殺人事件の顛末が描かれる。 物語は正統派のハードボイルドで、ロス・マクドナルドばりの陰鬱な雰囲気が全編に流れている。ジャック・ニ…