小説

『キッド・ピストルズの慢心』/山口雅也

前作に比べると小ぶりな作品が多いが、 キッドの生い立ちが語られる「キッド・ピストルズの慢心」、 英国らしいカントリー調の「執事の血」などが良かった。 「ピンク・ベラドンナの改心」からは山口雅也の「高尚なものも 低俗なものもいっしょくたに論じる…

『キッド・ピストルズの妄想』/山口雅也

このシリーズはタイトルからもわかるとおり、 チェスタトンの「ブラウン神父シリーズ」のオマージュでもある。 特に本書におさめられた3本は「信仰」について語られており、 狂人の妄想にもある種の論理が存在しているのではないか、 という命題にそって事件…

『キッド・ピストルズの冒涜』/山口雅也

パラレル英国を舞台にした、本格ミステリ集。 全編がマザーグースの童謡ミステリ、という趣向。 警察よりも「探偵士」とよばれる名探偵に捜査権が優先的に与えられる 世界で、事件を解決するのはパンク刑事という設定が面白い。 事件自体も「ねじれ」たもの…

『反自殺クラブ』/石田衣良

「死に至る玩具」と「反自殺クラブ」が良かった。 このシリーズは時代をとらえているので、できれば発表時に読むべきだと思う。 そういう意味では文庫化を待つ前に、単行本で買うべきかなと反省した。 日本のシリーズ小説で、もっとも楽しみなのがこの池袋ウ…

『銀河英雄伝説(10) 落日篇』/田中芳樹

正伝最終巻。 なんとなく消化試合の印象があるが、きっちり話を終えている。 『仁義なき戦い』シリーズと同じくらい、キャラクターが立っている物語。 自分はどの登場人物に似ているかな、と考えるのも一興。 いまさらオーベルシュタインにはなれないし。 ヤ…

『薔薇の女』/笠井潔

矢吹駆初期三部作の三作目。 <アンドロギュヌス>を名乗る連続殺人犯がパリの街を跋扈する。 両性具有や犯行現場に撒かれた薔薇など、耽美な空気のある作品。 そして思想対決の相手は、エロティシズム研究で高名なジョルジュ・バタイユ。 ところで、『薔薇…

『サマー・アポカリプス』/笠井潔

10年ぶりくらいに再読。ヨハネ黙示録に見立てた連続殺人事件が起こる本格ミステリ。カタリ派の秘宝やナチスの神秘主義などにも言及があり、何度か「インディ・ジョーンズ」が頭をよぎった。殺人事件すらも思想的対決の手段とされている点で、『バイバイ、エ…

『女王蜂』/横溝正史

しばらく前に読み終わったのだが、中盤の展開がよく思い出せない。 真犯人の動機はちょっと理解に苦しむのだが、事件の片付け方は美しい。 そうか、金田一耕助は名探偵というより、事件処理係なのか。 読んでいるときはとても面白かったので、疲れているとき…

『ヒューマン・ファクター』/グレアム・グリーン

自身も諜報機関の一員だったグレアム・グリーンのスパイ小説。 とはいえ、大掛かりな陰謀や派手な活劇シーンはなく、 スパイの私生活が静かに描かれていく。 諜報に生きる男たちもまた、善良な夫であり、父親なのだ。 主人公のカッスルが見出した「祖国」に…

『熾天使の夏』/笠井潔

ミステリではない矢吹駆もの、ということで少し躊躇していたが、読んでみたら想像以上に良かった。この人は本格推理よりも、純文学で生きるべきだったのではないか。「革命」に身を投じたもののヒリヒリした感覚が伝わってきて、エネルギーを感じる小説だっ…

『野球の国のアリス』/北村薫

小学校時代は、少年野球でエースピッチャーをつとめていたアリス。しかし中学では野球を続けることができない。男の子の体格がどんどんよくなり、女子では通用しなくなってくるからだ。そんな野球好きの少女に、北村薫は「最高の舞台」を用意する。誰かのこ…

『スノウブラインド』/倉野憲比古

帯コピーでは『葉桜の季節に君を想うということ』や『イニシエーション・ラブ』に並ぶ衝撃のデビュー作、といったことが書かれているが、ちょっと系統が違うかな。どちらかというと、倉阪鬼一郎に近いと思う。麻耶雄嵩にも似ている。 吹雪の山荘で起こる密室…

『青銅の悲劇』/笠井潔

帯コピーには、「矢吹駆シリーズ日本篇第1作」とある。 でも、カケルはほとんど出てこないので、その点は要注意。 舞台は昭和天皇が病に伏している1988年末の日本。 昭和という時代を、笠井潔の分身ともいえる作家の宗像が総括していく前半は、 読み応えがあ…

『四十七人目の男』/スティーヴン・ハンター

ボブ・リー・スワガーふたたび、という帯コピーが嬉しい。 嬉しいのだが、これはちょっと…。 あのボブが、日本刀を振り回して討ち入りをかけるという展開には、 正直なところ「無理!」と思ってしまった。 シリーズを未読の方は、お願いだから『極大射程』か…

『ひげのある男たち』/結城昌治

このシリーズは読んでいなかったので、創元推理文庫に入ったのを機に手に取った。結城昌治のデビュー長編で、容疑者も探偵役もひげのある男たち、という設定が面白い。さすがに内容は古い感じがするけれど、その後の『白昼堂々』などに通じるユーモアがあっ…

『ゴールデンスランバー』/伊坂幸太郎

この人は、和製ウェストレイクなんじゃなかろうか、と思ったり。 非常にウェルメイドなコン・ゲーム小説だと感じた。 エピソードの作り方が、とても小説的で上手い。 オリバー・ストーン監督の『JFK』や、エルロイの『アメリカン・デス・トリップ』 などを観…

『悪魔が来たりて笛を吹く』/横溝正史

横溝作品の中でも特に印象的な作品で、退廃的な雰囲気が、濃密な世界観をつくりあげている。金のフルートと、夜のしじまを破る「悪魔が来たりて笛を吹く」というレコード、ゲーテの『ウィルテルム・マイスター』など、小道具の使い方が絶妙。子供の頃に西田…

『銀河英雄伝説(9) 回天篇』/田中芳樹

ロイエンタールの行動は、半分は理解できないけれど、半分は理解できる。 銀河英雄伝説〈9〉回天篇 (創元SF文庫)作者: 田中芳樹,星野之宣出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2008/06/28メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 6回この商品を含むブログ (39件) …

『悪魔の寵児』/横溝正史

蝋人形、異常愛欲などを扱った異色作。 本格推理というより、サスペンスの色合いが強い。 金田一耕助も登場するが、どちらかというと脇役。 新聞記者、水上三太を主役とした青春ミステリといえるかも。 蝋人形館の女主人・望月種子と、人形師の猿丸猿太夫の…

『果断』/今野敏

『隠蔽捜査』の竜崎が再登場するシリーズ第2作。 山本周五郎賞、日本推理作家協会賞のW受賞もうなずける。 竜崎は原理原則を守り続けるからこそ、すれ違いながらも、 部下との固い信頼関係を結んでいけるのだ。 こういう上司像も、いいよな。 果断―隠蔽捜査…

『隠蔽捜査』/今野敏

これは、びっくりするほど面白い! 読まずにいたのを、後悔した。 主人公の竜崎は警察庁のキャリアなのだけれど、 冒頭とラストとでは、まるで受ける印象が違う。 こういうコミュニケーションのズレって、あるよなと思った。 未読の方は、ホント、すぐ読んで…

『仮面舞踏会』/横溝正史

軽井沢を舞台に、女優の元夫たちが次々と殺害されていく。 この小説は15年くらい前に読んだきりだけれど、 ゴルフ場での一場面を鮮やかに記憶していて、愛着のある作品だ。 むかしの角川文庫版だと、表紙がむっちゃ怖いのだけれど、 読み終わるときちんと意…

『予知夢』/東野圭吾

あまり記憶に残る話はないが、一晩で読んだ。 エンタメとしては、それで良いのだと思う。 予知夢 (文春文庫)作者: 東野圭吾出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2003/08/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 42回この商品を含むブログ (425件) を見る

『探偵ガリレオ』/東野圭吾

そういや東野圭吾は理系だったんだな、と。 佐野史郎が解説を書いていて、「湯川のモデルは自分だ」と語るのだが、 福山雅治がお株を奪ってしまった後だと、ちょっとむなしい。 (佐野史郎のほうが、原作に雰囲気が近いのは間違いない) 個人的には、これく…

『獄門島』/横溝正史

コピーの新人ちゃんと横溝の話をしていたら、無性に読みたくなった。 『獄門島』の横溝は神がかっているというか、天才だと思う。 後年の作品はムダが多いが、こいつは純度が最高に高い。 あえていおう。『獄門島』を読まずに死ぬのは、阿呆であると。 ※ちな…

『ひとめあなたに…』/新井素子

隕石の落下により、1週間後に滅ぶ運命となった地球。 練馬に住む美大生の圭子は、ガンで余命いくばくもない恋人の朗に会うため、 鎌倉まで徒歩で目指すことを決意する。 もう世も末、ということで、じわじわと狂っていく人々。 圭子は途上、4人の女性の狂お…

『壁抜け男の謎』/有栖川有栖

ノンシリーズの短編集。 特にめぼしい作品はないので、文庫で買うか、図書館で借りるのが吉。 壁抜け男の謎作者: 有栖川有栖出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング発売日: 2008/05/01メディア: 単行本 クリック: 18回この商品を含むブログ (51件) を…

『悪霊島』/横溝正史

横溝作品としては中の下くらい。 上巻の最後まで、事件が起きないのがちょっとだるい。 京極夏彦の作品などに慣れてしまうと、物足りないミステリ。 磯川警部の隠されたエピソードがあるので、退屈ではないけど。 瀬戸内海には、「越智」姓が多いというのは…

『グリーン・レクイエム/緑幻想』/新井素子

星雲賞受賞作『グリーン・レクイエム』と、その続編『緑幻想』を一巻本に収録した青春SF。いま読むと、1990年に発表された『緑幻想』は環境問題を先取りしており、切実さが増していると感じる。なにより、この二作が一巻本で読めるのが嬉しい。『ひとめあな…

『ベルカ、吠えないのか?』/古川日出男

イヌ、である。 20世紀、戦争の世紀、軍用犬の世紀。 時代を生き延び、生み殖やすイヌたちの物語である。 イヌに呼びかけるような文体が、 海外の詩のようでもあり、読み手を駆り立ててくる。 太平洋戦争にはじまり、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争な…