90年代の清算(その1)


僕にとっての90年代は、『羊たちの沈黙』によって幕を開けた。フロイトユングの難解さに打ちのめされた高校時代は、文芸系クラブの“開放的牢獄”ともいえる部室に入り浸った。トランプと、野球ゲームと、雑記張と呼ばれる交流ノートが救いだった。調子にのってラカンなどに手を出していたら、本当に気が狂ったかもしれない。ラジカセからは、森田童子が流れていた。


自分ではオタク的と感じていたが、周囲はそれ以上にオタクだった。僕はキース・ピータースンの『暗闇の終わり』を読みながら、友人が“紫の巨人が出てくるアニメ”について語るのを聞き流していた。エヴァンゲリオン。大学に入り、深夜の再放送で観たときは、ウルトラセブンみたいな話だと思った。劇場版を観たときは、眩暈がした。ディスコミュニケーションというものを、初めて意識した。


大学時代は、毎晩飲んでばかりいた。その頃から、体調はあまり良くなかった。神経は尖るばかりだし、扱いにくい人間だったろう。それでも何人かの友人が迎え入れてくれて、なんとかバランスを保っていた。あの頃を思い出すと、本当に頭が下がる思いだ。誰もが善良で、世話を焼いてくれたけれど、僕はずっと素直になれずにいた。(つづく)


暗闇の終わり (創元推理文庫)

暗闇の終わり (創元推理文庫)