『初恋よ、さよならのキスをしよう』/樋口有介


柚木草平シリーズ第2作。
娘の加奈子とスキー旅行に出かけた草平は、そこで高校時代の初恋の相手、卯月実可子と20年ぶりに再会する。しかし1ヶ月後、彼女は自身が経営する雑貨店で、何者かに撲殺されてしまった。実可子の姪の依頼で、事件の調査をはじめる草平。それは、高校時代の同級生をたずね、彼らの過去を探り出す行為でもあった。


こんな僕でも、女って怖いな、と思う瞬間というものがあって、本書はそういう痛みと向き合う小説だ。男が思うほど、女は可憐ではないし、守ってほしいわけでもない。それでも、何がしかの誠意を見せなければ、男は自尊心を保てない。そういう生き方しかできない、ということは、ある。草平は実可子の姪の早川佳衣に、事件から手を引くように説得する。


「他人の不愉快な部分に足をつっ込むのは、これ以上汚れる心配のない人間のやることだ」喋っているうちに自分で自分に腹が立ってきて、思わず机の脚を蹴飛ばし、俺は窓のほうへ顔を向けて椅子に腰をおろした。(P.156)


この後、佳衣は怒ったように部屋を出て行くが、終幕の場面で再び姿を現す。草平が彼女から受け取ったプレゼントが、青春の残り香のようで、このシリーズの前向きなトーンを象徴していると思う。