『キングとジョーカー』/ピーター・ディキンスン


これほど、幻の名作といわれてきた作品も珍しいのでは。
サンリオSF文庫だと、古本で1万円くらいするし。
いやあ、やっと読めましたよ。


舞台は、現実とは異なる架空の英国王室。前半部は状況説明が多いため、ちょっとたるいが、あまり深く考えずにさくさく読んでいけば良い。そのうち、物語の鍵を握るのが、王女ルイーズ(ルル)と育児係のダードン(ダーディ)であるとわかってくる。「よそゆきの顔」と「内輪の顔」のふたつをもつ、ルルの瑞々しい苦悩。そして叙情性ゆたかに語られる、ダーディの回想。そこに“ジョーカー”の不吉ないたずらが陰を落としていく。そして終盤の、ルルとダーディのやりとり。ミステリとしての鮮やかさよりも、静かな余韻が胸に残る小説だった。


扶桑社文庫版の解説は、山口雅也
『生ける屍の死』の作者以上に、この本の解説にふさわしい人物もいないだろう。


キングとジョーカー (扶桑社ミステリー)

キングとジョーカー (扶桑社ミステリー)