『團十郎切腹事件』/戸板康二
歌舞伎界の老優、中村雅楽を探偵役とする全集第1巻。
この創元推理文庫版はシリーズを完全収録するとのこと。
雅楽ものをまとめて読む機会はなかったので、垂涎ものですね。
俳優が名探偵、という設定はエラリイ・クイーンのドルリイ・レーンものが有名だが、本シリーズの出発点もそこにあるとのこと。とはいえ、雅楽の観察眼は、むしろクリスティのミス・マープルに近いか。歌舞伎だけではなく、新劇、テレビなどさまざまな芸能界が舞台となり飽きさせない。文体もとても優雅で、すいすいと読めてしまう。
本書には直木賞受賞作「團十郎切腹事件」が収録されているが、こちらはジョセフィン・テイ『時の娘』の換骨奪胎ともいえる秀作。現代でこの手のミステリが書けるのは、北森鴻くらいじゃないかな。とにかく、読んで損のない、というか一家に一冊そろえておきたい全集だ。巻末の資料も充実。さすが、日下三蔵さん。
- 作者: 戸板康二
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/02/28
- メディア: 文庫
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