『團十郎切腹事件』/戸板康二


歌舞伎界の老優、中村雅楽を探偵役とする全集第1巻。
この創元推理文庫版はシリーズを完全収録するとのこと。
雅楽ものをまとめて読む機会はなかったので、垂涎ものですね。


俳優が名探偵、という設定はエラリイ・クイーンのドルリイ・レーンものが有名だが、本シリーズの出発点もそこにあるとのこと。とはいえ、雅楽の観察眼は、むしろクリスティのミス・マープルに近いか。歌舞伎だけではなく、新劇、テレビなどさまざまな芸能界が舞台となり飽きさせない。文体もとても優雅で、すいすいと読めてしまう。


本書には直木賞受賞作「團十郎切腹事件」が収録されているが、こちらはジョセフィン・テイ『時の娘』の換骨奪胎ともいえる秀作。現代でこの手のミステリが書けるのは、北森鴻くらいじゃないかな。とにかく、読んで損のない、というか一家に一冊そろえておきたい全集だ。巻末の資料も充実。さすが、日下三蔵さん。


團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 (創元推理文庫)

團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 (創元推理文庫)