『三十四丁目の奇跡』/ジョージ・シートン監督


クリスマスにぴったりの情感あふれる作品。とはいえ、現代が抱える効率至上主義への批判も込められていて、ただのハートウォーミングとは一味ちがう。


物語の舞台は、クリスマス商戦まっただなかのニューヨーク。
大手百貨店メイシーズの人事係、ドリスはパレードのサンタクロース役として、クリスと名乗る老人を起用する。彼の親切で温かい人柄が評判を呼び、メイシーズの売上は急上昇。だが彼は自分をサンタクロースだと信じており、その存在をよく思わない精神科医の策略によって「異常者」のレッテルを貼られ、強制収容されそうになってしまう。かくしてクリスを救うべく、最高裁にて前代未聞の「サンタクロースの存在を問う」裁判がはじまった……。


バツイチで子持ちの現実主義者であるドリスと、彼女を慕う人のいい弁護士ゲーリーの関係も見所のひとつ。「サンタクロースなんて存在しない」と娘に教えるドリスと、「無形の財産が人間には必要だ」と考えるゲーリーの緊張関係は、クライマックスで昇華する。人間にとって、現実逃避は必ずしも悪いものではない。空想のチカラがあるからこそ、人は不条理にも耐え、生きていけるのだ。なんてことを、クリスマスイブに大真面目に考えてしまった。


いや、そんな理屈を軽々と超える名作だな。元気の出る一本。

信頼は、すべての常識に勝る。