『狂犬は眠らない』/ジェイムズ・グレイディ


実家への行き帰りの新幹線で一気読み。
これは痛快な冒険活劇だなあ。


主要登場人物の5人は、頭がおかしくなって秘密の精神病院に監禁されている元スパイ。彼らが精神分析医の殺害の罪をなすりつけられそうになって、真犯人を探すべく脱走する。この5人のキャラクターが、際立っていてすごくいい(詳細はネタバレになるので書けない)。


しかも狂犬5人組はとりあえず病院から逃亡するのだけれど、クスリが切れると壊れて身動きがとれなくなるので、タイムリミットは約1週間しかないのだ。いつ完全におかしくなっちゃうかわからない、という不安は、以前仕事で自律神経失調症になりかけた(っていうか発症してたかも)僕にも、よくわかる。あれ、けっこうキツイのよね。その1万倍くらい辛いわけでしょう、きっと。その5人がお互いをカバーしあい、盗難車を乗り継ぎながら探索を続けていく様子は、ロードノベルとしてもAクラス。それぞれ病んじゃってるから、なんだかとても相手に優しいんだよね。


ラストのほうは少し駆け足気味だけど、そんなことどうでもいいくらい、中盤までの展開が素晴らしい。ついつい「がんばれ!」って応援している自分に気づく。なんだか『特攻野郎Aチーム』を思い出しましたよ。


今年はこの作品を読めただけで、もう満足です。


※ちなみに本書が翻訳家、三川基好さんの遺訳となった。解説は田口俊樹さんが書かれているが、本当に素晴らしい翻訳家であったし、最後まで力のこもった作品を残してくれた。死ぬ間際まで、この仕事が心底好きだったことが伝わっきて、僕も物書きの端くれとして背筋を伸ばさなきゃな、と思う。少しでも、人に勇気を与える仕事をしよう。僕にはそれくらいのことしかできないけれど、でも、そのくらいのことはできるんだ、と思いたい。そういう意味で、この本は特別な力をもっているし、迷ったときにすぐに開けるように、手元に置いておこうと考えている。


狂犬は眠らない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 14-1)

狂犬は眠らない (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 14-1)