『今夜、すべてのバーで』/中島らも・著


こうしたケガ、病気、不幸のすべてを、おれは楽しんできた。楽しめるのは、結局おれが自分の存在を周囲から他人のようにながめていられるからだろう。ながめているおれは、愚行を演じているおれを見て苦笑いしている。(P.176)


主人公の小島容(いるる)は、アル中だ。35歳の彼が、肝臓の不調で身動きがとれなくなり、入院するところから物語は始まる。この小説が面白いのは、小島がアル中であることを自覚しながら、酒にとりつかれているところだろう。彼はアル中に関する本を肴にしながら、ウイスキーを飲むような男なのである。


とはいえ、けっして暗い話ではない。全編にユーモアが行き届いた、透明度の高い作品だ。なにより酒飲みであれば、ラストの5行に不思議な爽快さを感じるのではないだろうか。


吉川英治文学新人賞受賞作。
※文庫版には「中島らも×山田風太郎」の対談も収録されている。


今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)