『バットマン:イヤーワン』/フランク・ミラー/デビッド・マズッケリ


何の前触れもなく、それはやってくる…
書斎の窓を…僕の部屋の窓を突き破って…
以前にも…どこかで見た事がある…
子どもの頃だ…とても恐ろしかった…
恐ろしかった…
そうだ、父さん
僕は蝙蝠になろう


渡辺謙が出演したことで、日本でも話題となった『バットマン・ビギンズ』。本書はその原作(扱い)であるが、ラーズ・アル・グールは登場しない。あくまでもゴッサムシティに帰還したブルース・ウェインが、バットマンとして生まれ変わる“イヤーワン”を克明に描いた作品である。


日本ではアメリカン・コミックスの認知度はまだまだ低く、ともすれば「派手なアクションシーンを撒き散らす原色バリバリの漫画」と思われがちだ。私も、以前はそうだった……『バットマンダークナイト・リターンズ』を読むまでは。フランク・ミラーが描き出すバットマンは、暗く闇に沈む、正真正銘の“ダークナイト”である。台詞のほとんどが断片的な述懐であることからも、その傾向がうかがえる。彼は自らの心の闇と対峙するように、ゴッサムシティの犯罪者たちに立ち向かうのだ。ここに、ネオ・ハードボイルド小説との接点がある。


もしかするとバットマンというヒーローに興味がなければ、本書は無用の長物かもしれない。けっして愉快なコミックではないし、コスト的にも見合わない買い物だ。しかしもし、あなたがアンドリュー・ヴァクスやハーラン・コーベンのような作家を面白いと思うなら……意外な共通点を発見するかもしれない。


バットマン:イヤーワン (JIVE AMERICAN COMICSシリーズ)

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