『風の男 白洲次郎』/青柳恵介・著


吉田茂を支えた戦後史の重要人物、それが白洲次郎だ。1902年、兵庫県芦屋生まれ。神戸一中を卒業後、英国にわたりケンブリッジ大学クレアーカレッジへ。戦時中は食糧難になることを予見し、鶴川村で農業に従事。戦後はGHQとわたりあい、「日本国憲法」制定の現場に立ち会う。本書は彼の生きざまを綴る回顧録である。


『ボクは人から、アカデミックな、プリミティヴ(素朴)な正義感をふりまわされるのは困る、とよくいわれる。しかしボクにはそれが貴いものだと思つている。他の人には幼稚なものかもしれんが、これだけは死ぬまで捨てない。ボクの幼稚な正義感にさわるものは、みんなフッとばしてしまう』


と本人が語るとおり、彼の生き方はストレートで痛快だ。権力には噛みつく。弱いものいじめを許さない。「ノブリス・オブリージュ」を胸に秘めた白洲次郎の生き方には、心打たれるものがある。


私が、取材のために「軽井沢ゴルフ倶楽部」を訪れ、キャディさん達に集まって貰い知らすの思い出話を聞くと、皆下を向き「本当に優しい方だった」と言葉を洩らし、全員が涙をこらえるばかりで話は聞けなかった。


この一節に、彼の魅力が詰まっていると思う。


白洲次郎は青年時代にブガッティを乗り回していたことから、藤田宜永の『鋼鉄の騎士』のモデルではないかと推測される。


風の男 白洲次郎 (新潮文庫)

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