『日本人の正体』/養老孟司・テリー伊藤


養老――じゃあ、実際、「武士道って何だ?」って考えると、要は平和な時代の管理職なんだよ。


2004年刊行『オバサンとサムライ』の新書版。
『国家と品格』で受けていた違和感が、本書によって氷解した。理由は、2点ある。


ひとつは、サムライの本質のとらえ方。
『国家と品格』はサムライをなかば理想化した概念で語っているが、本書では共同体の構成員として解釈している。すなわち、一匹狼的にメジャーへ挑戦したイチローは、サムライではない。そして巨人軍を脱藩してヤンキースに行った松井もまた、サムライではない。松井がメジャーへ移籍した段階で、巨人は共同体として崩壊していたからだ。守るべき家があるのがサムライ、という考え方が前提にないと、日本人論としては片手落ちとなってしまうということだろう。


ふたつめは、土俵の問題。
藤原正彦養老孟司の意見は、結論だけ見れば共通項が多い。しかし納得性という上では、養老の方が数段上だ。それは彼が自分の生きた言葉で、物事を語っている点にある。医学者としての見地をとってみても、数学者でありながら論理をわきにおいてしまう藤原とは大きな隔たりを感じる(もっとも、医学が肉体を扱う学問である以上、養老の方が実感に近いのは当たり前なのだけれど)。


最後に、妙に心に残ったコトバ。


養老――言葉を増やすということは、逆に言うと言葉を軽くするんです。一種のインフレを起こしているわけだから。


日本人の正体 (宝島社新書)

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