『悪党パーカー/弔いの像』/リチャード・スターク 著/片岡義男 訳


このシリーズを“COOL”といわずして、なにを“COOL”というべきか。
冷徹な犯罪者、パーカーを描いた第4作目が、この『弔いの像』だ。


本シリーズの特徴は、心情表現を排した語りのテクニックにある。作者はけっして、パーカーの内面を語らない。ただ行動を簡潔に描くことで、怒りや苛つきを表現してみせる。この距離感が、読者を安全圏へと避難させることに成功している。ためらいもなく人を殺す(ように見える)パーカーの姿は、私たちの良心を痛めさせない。必要以上の感情移入ができないよう、あらかじめ設計されているからだ。


また、本書ではパーカーを出し抜こうとする人物として、共産圏の特殊工作員メンロが登場する。彼は「正直者」として知られており、ある任務のためアメリカに送り込まれるが、じつは10万ドルを奪って亡命しようと画策している。そこにファム・ファタル的な要素をもつ女、エリザベスが介入し、パーカーは窮地におちいるという筋書きだ。特に第三部は、メンロを主役にすえたロードノベルとして読んでも面白い。


つまりメンロのような男は、あまりにも正直すぎるが故に、いったん心を決めてしまうと、とことん不正直になりうるのだから。


とにかく作風の広いリチャード・スターク(=ドナルド・E・ウェストレイク)だが、その根元にあるのは、深い人間洞察なのだと感じさせられる。