『太陽の塔』/森見登美彦


日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
京都大学を休学中の「私」による、妄想と純愛の物語だ。


主人公の「私」は、水尾さんという恋人と「円満に別れた」といいながらも、未練たらたら。「水尾さん研究」と称して、ストーカーまがいの行為を繰り返している。こうして冬の京都を舞台に、オタク的独白が「これでもか、これでもか」と続いていくのだ。その言動は一般の理解を超えてはいるが、恋という理不尽な感情に惑い、自己を取り戻そうとする苦闘の跡だけは真実であると思う。


結局のところ、ある種の男たちというのは不器用すぎるのだろう。また不器用であることを認識した上で、そこに稀少な価値を見出そうとするから始末が悪い、という一面もある。しかしそうした屈折でしか、乗り越えられない心の傷があるのも確かではないか。臆病であることは、はたして卑怯なのだろうか。私はその答えを、見つけることができずにいる。


太陽の塔 (新潮文庫)

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