『第三の時効』/横山秀夫


F県警強行犯を描く、連作短編集。
半落ち』が黄金期のハリウッド映画的ヒューマンドラマだとすれば、こちらはフィルム・ノワールの世界。エド・マクベイン「87分署シリーズ」や、エルロイ「LA四部作」に近い手触りの作品だ。いかに他の班を出し抜き、手柄を立てるかに執着する刑事たちの姿を、生々しく描いている。


特に、班長たちの人物造形が面白い。一斑の朽木は、ある事件をきっかけに「笑わない」刑事となった。彼のトラウマは、この作品のあちこちで顔を出し、重要な分岐点を作り出す。二班の楠見は、公安畑からやってきた異色の捜査一課員。真綿で首を絞めるように、容疑者を追い詰める。表題作の「第三の時効」で見せる狡猾さと非情さは必見。そして三班の村瀬は、卓越した動物的カンを持つ天才型の刑事。この三人が競い合うように犯罪者を狩りたてるさまは、軟弱なミステリに飽きたハードボイルドファンにとって拍手喝采ものだ。


現在、シリーズ続編が「小説すばる」で連載中のようなので、楽しみだ。


第三の時効 (集英社文庫)

第三の時効 (集英社文庫)