『名もなき毒』/宮部みゆき


登場人物はコミカルだが、テーマは重い、という作品。
ミステリとして読むと、肩透かしを食うかもしれない。これは寓話ですね。


主人公の杉村三郎は、今多コンツェルンの社内報を編集するヒラのサラリーマン。彼の妻は会長の娘なのだが、権力争いとは無縁の生活を送っている。現実的にはありそうもない話だが、まぁそれはおいといて。本書のテーマは、人間が抱える「毒」。連続無差別毒殺事件、被害妄想の女、ハウスシック症候群など、現代にひそむ毒が描かれていく。


人物描写はいいのだけれど、少し物語を詰め込みすぎた感があり、全体としては薄味な印象。もうちょっと話を短くするか、連作短編の形をとったほうが、緊張感を保てたと思う。宮部みゆきの「意地の悪さ」はアガサ・クリスティに近い味わいがあるが、今回は精彩に欠けた。思わせぶりな登場人物が多いので、よけいに散漫な感じがするのだろう。


ただ、一つひとつのエピソードはよくできているので、読んで損したとは思わない。個人的には園田編集長が登場すると、なんだか嬉しい。


名もなき毒

名もなき毒