『ウルトラマン誕生』/実相寺昭雄


特撮映像の世界では知らぬもののいない、実相寺昭雄が語る「ウルトラマン」の撮影エピソード。もともとは『ウルトラマンのできるまで』と『ウルトラマンに夢見た男たち』の二冊だったものを、合本改題したものだ。本書ではウルトラマンが誕生し、育まれ、多くの人に愛されていく過程が詳細に描かれている。特に円谷親子(英二、一)の思想というか懐の広さには、脱帽するしかない。


円谷英二さんの教育というか、理念というか、考え方は徹底していましたね。第一には、お化けはつくらない、ということです。そして第二に、人間の身体、皮膚を破壊したものはつくらない、ということでした。その理念にぼく(デザイナーの成田亨)も共鳴したし、その円谷さんの強い意志があったからこそ、怪獣たちも、人びとに愛される存在になったんじゃないでしょうか。……怪獣というのは不恰好で、不器用で、大きな図体をもてあまして、結局最後には人間の社会から葬り去られてしまう。時代遅れで、いつも突然に、異次元の過去が現在に登場するイメエジなんです。その意味では、SF的未来から来る宇宙人とはだいぶちがう。怪獣には、原始怪獣が絶滅したように、時代についていけないもの、時代からとりのこされたもののやさしさや、見果てぬ夢があるんじゃないでしょうか。だから、ぼくは、生理的におぞましく、いやらしいかたちをつくることはできませんでした」(P.86)


「おまえ(特撮ものに関係のないプロデューサー)なんか、俳優のごきげんばかりうかがって、夢中になってもの作ったことなんかないだろう。おれたちは世間の風に左右されない夢を見ようとしているんだからね。たまには四畳半のくっつき合いじゃなくてさ、どんな大きいやつが東京タワーをこわしに来たらおもしろいか考えてみろよ」(中略)「そんな、おまえら関係ないやつのちょっとした茶々で白けた顔してるようじゃ、すごい怪獣なんて空想できないぞ。白けたやつが作るものを子どもがよろこぶわけないだろう。おれたちは空想に命がけなんだからさ、あほなおとなといわれようといいじゃねえか」一さんの目が、しのびこんだ宵闇の中でキラキラしていた。(P.200)


そのほかにも、縫いぐるみに入ったときの孤独感はとてつもないものがあるなど、現場にいた人間にしかわからない挿話が満載のエッセイ集だ。


ウルトラマン誕生 (ちくま文庫)

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