『文庫版 姑獲鳥の夏』/京極夏彦


京極堂シリーズ第1作。
ノベルス版を読んだのが、もう10年も前になるとは。時の経つのは早いものだ。


デビュー作にはすべてが詰まっている、とよくいわれる。本書を改めて読み返してみて、完成度の高さにため息が出た。赤児の連続誘拐事件、密室消失事件、二十箇月も妊娠したままの女性。すべてが「言葉」によって解体され、憑物は落ちる。まるで騙し絵を見せられているような不穏さと、新たな像が浮かび上がってきたときの衝撃は、探偵小説の醍醐味だ。しかしそれに続く眩暈からの覚醒、関口の現実への帰還という鮮やかさこそが、京極堂シリーズの凄さなのだとも思う。


また、関口はこの事件で相当な心的外傷を負ったと思うが、続く作品群でもなんとか生き延びていくのだから、意外とタフなのかもしれない。本書では、わりと普通のキャラクターに見えるから不思議だ。


ちなみに文庫版の解説は笠井潔


文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)