『文庫版 絡新婦の理』/京極夏彦


京極堂シリーズ第5作。
房総の旧家、織作家が創設した聖ベルナール女学院で囁かれる<黒い聖母>と<十字架の裏の蜘蛛>の噂。一方、探偵の榎木津は婦人運動を行なう女性の依頼を受け、彼女の夫がいるとされる聖ベルナール女学院を訪れる。その頃、木場も連続目潰し魔、平野の行方を追い、房総へと導かれてくるのだが……。


「あなたが――蜘蛛だったのですね」。衝撃的な「真犯人」の指摘から幕をあげる本書は、京極夏彦のひとつの到達点といっていいだろう。殺人犯の発見が次の犯人を浮かび上がらせる、という複層的な事件の構図が、蜘蛛の巣状にはりめぐらされ、美しい紋様を描き出している。『鉄鼠の檻』のような不思議な世界観こそないものの、「蜘蛛」の存在と、桜の舞う情景が、網膜にありありと浮かぶようだ。何度も読み返したくなる傑作ミステリ。


文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)