『あなたに不利な証拠として』/ローリー・リン・ラモンド


「このミス」の海外部門で1位にもなったローリー・リン・ラモンドの処女短編集。正直なところ、ミステリではないと思うのだが、トルーマン・カポーティのような不思議な余韻を残す作品だ。


主人公となるのは、キャサリン、リズ、モナ、キャシー、サラという五人の女性警官。登場人物はちょっとずつ重なっているものの、基本的には独立した物語だと思っていい。この作品集のなにがすごいかというと、暴力を日常のものとして生きる人々の凄惨さ、だろうか。「味、感触、視覚、音、匂い」という短編が入っているが、死の恐怖が爪の間にまで入り込んでくる生々しさがそこにはある。警官として生きるなかで、さまざまな問題を抱える女性たち。あくまでも日常の延長線上に警官という仕事があるからこそ、絶望的だ。彼女たちには、ロマンスさえ許されないのだから。


著者は本書の舞台となるバトンルージュ市警で5年間勤務し、30歳のとき事故で辞職。「場所」は彼女の自伝的短編でもあるのだろう。「傷痕」でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀短編賞を受賞している。