『アイルランドの薔薇』/石持浅海


石持浅海の処女長編。
アイルランドの町、スライゴーの宿屋で、武装勢力NCFの副議長ダグラス・マクマホンが殺害された。宿泊客は、全部で8人。犯人の動機は、政治的なものか、個人的な怨嗟か。居合わせた日本人科学者、黒川富士雄(フジ)は、頭脳ひとつで犯人を追い詰めていく。


NCFの政治的思惑のため、警察の介入がなされない宿屋での推理合戦になるという展開が面白い。科学捜査が使えればすぐに解決されるはずの事件が、「縛り」によって知的ゲームに変わるのだ。同様の設定は『扉は閉ざされたまま』でも行なわれており、著者の十八番なのだろう。
濃厚な人間ドラマなどはないが、パズラー小説として楽しむなら何の問題もない。探偵役のフジがなぜこれほどのスーパーマンなのか、その点だけが、よくわからなかったけれど。あと、ケンの正体に関しては、蛇足かな。


アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

アイルランドの薔薇 (光文社文庫)