『奇術師』/クリストファー・プリースト


語りに身を委ねる愉悦と、騙りに翻弄される衝撃。
そのふたつをいっぺんに味わえるのが、この作品のすごさだろう。


20世紀初頭に火花を散らした、ふたりの天才奇術師、アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャ。彼らのキャリアをもっとも輝かせたパフォーマンスは、それぞれが発案した「瞬間移動」だった。一方、ボーデンの子孫であるアンドルーは、幼少の頃から「もうひとりの自分」の存在を感じ、生きてきた。やがて彼はエンジャの子孫であるケイトと出会い、「瞬間移動」の秘密を知ることになる…。


「信頼できない語り手」であるボーデンの手記に隠された秘密と、エンジャの日記によって明らかになる真実。語りのテクニックは一流、物語の中心を貫くトリックはあきれるほど大胆。ファンタジーとSFの境界線を軽々と飛ぶような感覚に、時間が経つのも忘れてしまう。作者のクリストファー・プリースト自身が、もっとも優れたプレスティージ(惑わす者)なのだ。


世界幻想文学大賞受賞作。『プレステージ』の題名で映画化もされている。監督は『メメント』『インソムニア』のクリストファー・ノーラン