『奇術師』/クリストファー・プリースト
語りに身を委ねる愉悦と、騙りに翻弄される衝撃。
そのふたつをいっぺんに味わえるのが、この作品のすごさだろう。
20世紀初頭に火花を散らした、ふたりの天才奇術師、アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャ。彼らのキャリアをもっとも輝かせたパフォーマンスは、それぞれが発案した「瞬間移動」だった。一方、ボーデンの子孫であるアンドルーは、幼少の頃から「もうひとりの自分」の存在を感じ、生きてきた。やがて彼はエンジャの子孫であるケイトと出会い、「瞬間移動」の秘密を知ることになる…。
「信頼できない語り手」であるボーデンの手記に隠された秘密と、エンジャの日記によって明らかになる真実。語りのテクニックは一流、物語の中心を貫くトリックはあきれるほど大胆。ファンタジーとSFの境界線を軽々と飛ぶような感覚に、時間が経つのも忘れてしまう。作者のクリストファー・プリースト自身が、もっとも優れたプレスティージ(惑わす者)なのだ。
世界幻想文学大賞受賞作。『プレステージ』の題名で映画化もされている。監督は『メメント』『インソムニア』のクリストファー・ノーラン。
- 作者: クリストファー・プリースト,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/02/10
- メディア: 文庫
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