花売り娘




パティ・マグレガーは淫売で、ヤク中で、その昔は花屋を夢見る少女だった。

マッキントッシュのコートを着た男は、彼女の名前を告げ、一日200ドルの報酬を提示した。人捜しの料金としては、悪くない。そしてさらに、彼女を見つけ出した場合、1万ドルの成功報酬を約束した。気前のいい男だ。だが私は、マッキントッシュのコートを着た気前のいい男を簡単に信じるほど、うぶではない。煙草に火をつけ、雨に濡れた窓に向かい合う。ここ三日ほど、太陽とはご無沙汰だ。頬のこけた無精ひげの中年男が、うつろな目で見つめ返した。


パティは、L.A.郊外の裕福な家庭の出身だった。父は不動産会社の経営者。母は短大でフィッツジェラルドに関する論文を書いた後、マグレガー家に嫁いだ。夫婦仲は良好。ハチミツたっぷりの愛情を注がれて育ったパティは、二軒先に住む幼馴染の私に、将来は花屋を開くのだと語った。十代の男の子は、花屋になんて興味をもたない。ただ、ややグレイがかったブロンドの髪と、三日月のような薄い唇の美しさに、胸騒ぎを覚えるだけだった。


ハイスクール卒業後、私は警官になった。彼女は東部の大学に進学し、二人のかすかな接点は完全に途切れた。かすかな悲しみを消し去るには、L.A.はうってつけの街といっていい。私はけちな犯罪者との鬼ごっこをして毎日を過ごし、7年間で5人の女を抱き、湖一杯分のコーヒーを飲んだ。彼女と再会したのは、強盗事件の捜査で点数を稼ぎ、市警の殺人課に抜擢された頃のことだ。パティは青年実業家たちと乱痴気騒ぎをしたあげく、ホテルのロビーを下着姿で駆け抜け、逮捕された。ヤクをやっているのは、一目瞭然だった。


数日後、彼女は保釈金を積み、釈放された。金を運んできたのは、アルマーニのスーツに身を包んだ弁護士だった。綽名は“優男”。金融マフィアの顔役、ジョルジュ・モントリオーネの腰巾着だ。火薬の匂い。この街で生きる人間は、嗅覚が優れていなければならない。

だが翌日、パティから連絡をもらった私は、午後一時に「ビランチャ」というレストランに向かった。警官の安月給には過ぎた店だ。一番奥のテーブルで待つ彼女は、光沢のある黒いドレスを着ていた。ほっそりとした身体のラインが、男の欲情を刺激しなかったとはいわない。ドラッグにむしばまれていても、彼女は美しかった。


「頼みがあるの」――メインディッシュが運ばれてくると、パティは切り出した。ある男に会ってほしいという。私は無言のまま、仔羊のローストを切り分け、彼女の口元を見つめた。震えている。嗅ぎ慣れた、恐怖の匂いだ。条件を出せば、身体を開くことは間違いなかった。一瞬、その肌に触れることを想像した。彼女の身体は、どんな風に鳴くのだろうか。だが私は首を振り、ナフキンで口元をぬぐうと、札入れから10ドル札を5枚抜き出した。花屋を夢見た少女の幻影から逃れるように、後ろを振り返らずに出口へと向かう。それが、彼女を見た最後だった。