『悪党パーカー/漆黒のダイヤ』/リチャード・スターク


「きみはこれに関してはプロのはずだが」
「人間に関してはプロじゃない。人間に関するプロなんていない」


悪党パーカーシリーズ第10作。
本書ではパーカーが知らぬ間に事件に巻き込まれ、ダイヤ強奪の指南役をつとめる羽目になる。指導する相手は、アフリカの新興国ダーバの国連代表団。軍事教練を受けたメンバーもいるが、基本的にはずぶの素人だ。しかもダイヤを狙っているのは、彼らだけではない。ダーバの白人入植者である三人組、そして詐欺師ホスキンズも横取りを画策していた……。


パーカーが実行犯ではなく、あくまで指南役に徹するという異色作。そのせいか、「今回の襲撃の際には、敵を皆殺しにする必要がある」など、いつも以上に冷徹な顔を見せている。パーカーにとっては、なにをしでかすかわからないアマチュアの方が、プロの犯罪者より数倍も慎重を要する相手なのだろう。また、リチャード・スタークの人間観察眼には、とにかく感服するばかり。次のような一節を読めば、本シリーズがたんなるバイオレンスではないことがよくわかる。


実際のところ、彼は、自分がどんな人間なのか、それほど確信はなかった。現在の役割は否定文で述べることができた――たしかに人を誘拐したが、誘拐犯ではない。盗みをやるつもりだが、泥棒ではない――彼の人生全体が矛盾していた。アフリカで生まれたが、アフリカ人ではない。両親はヨーロッパ人だったが、彼はヨーロッパ人ではない。イギリスの大学では成績がよかったが、知識人ではない。アフリカのいたるところで傭兵としてやってきたが、根なしの冒険家ではなかった。否定的側面を持たないものは何一つないように思われた。