『クライマーズ・ハイ』/横山秀夫


久しぶりにイッキ読み。個人的には『半落ち』よりも感動が深かった。
ビールを飲みながら読みはじめて、酔うヒマがないくらい興奮したものなあ。


物語は1985年、御巣鷹山日航ジャンボ機が墜落したところからはじまる。群馬の地元紙「北関東新聞」に勤める遊軍記者、悠木は全権デスクに任命され、未曾有の事件に挑む。しかし日航機事故は地元紙にとっては、手に余る存在。「もらい事件」であり、上層部も熱が入らない。むしろ、社長派と専務派の派閥抗争にうつつを抜かしている状況だ。当然、現場の記者たちとの温度差は開くばかり。精力を傾けて送った記事が陽の目をみなかったりと、悠木は自分の無力感とも戦うことになる。過去の栄光にしがみつく男たちの清算、というのも見所のひとつだ。


さらに物語のもうひとつの軸となるのが、山登り仲間の安西の存在。彼は衝立岩登攀の前日、脳溢血で倒れ、植物状態になってしまう。安西の息子、燐太郎は悠木によくなつき、一緒に山へ行く仲になるが、それは悠木の家族を修復する行為の一部でもあった。これは日航機事故より17年後、悠木と燐太郎が衝立岩に登り、からまった糸を解きほぐしていく物語でもある。


作者の横山秀夫は群馬の「上毛新聞」の元記者だけに、鬼気迫るものが伝わってくる小説だ。淡々とした文体が、現場の緊張感にぴたりとはまる。「ジャーナリズムとは何か」「父と子とは何か」という深いテーマが、すっと胸に入り込んでくる感覚。不器用に生きる男たちを描いた傑作といえるだろう。うん、明日も仕事をがんばろう。


クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)