『街の灯』/北村薫


昭和7年の東京を舞台にした、<ベッキーさん>シリーズ第1作。
士族出身の花村家にやってきた新しい運転手が、文武両道の若い美女、という設定が面白い。<覆面作家>シリーズはコメディの要素が強かったけれど、こちらは歴史的背景もあってか、わりとシリアスな展開が多いかな。


本書の特徴は、「身分の差」というものが、新しい「ホームズとワトソン」の形を作り出している点にある。本来はホームズ役であるはずのベッキーさん(別宮みつ子)は、使用人という立場上、けっして推理や表立った行動をしない。語り手であり、ワトソン役であるはずの花村英子にヒントを与え、事件を解決へと導いていく。そして英子本人は、ベッキーさんの誘導をつゆとも知らず、探偵役を演じるのである。


おそらく次作以降、ベッキーさんの経歴なども明らかになっていくのだろうが、どことなく作品全体に暗い調子が潜んでいてざわざわする。この居心地の悪さがどう物語につながっていくのか、楽しみだ。


街の灯 (文春文庫)

街の灯 (文春文庫)